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2011年9月30日 (金)

「平穏死」のすすめ~口から食べられなくなったらどうしますか~を読んで

つい先日、Facebookを始めました。高校の同期生のグループへの参加するためでしたが、次々に”友達”から発信されてくるニュースフィードに追いつくのが大変で、普段はたまにしか開かないノートPCにかじりつく日々でした。だんだんペースが掴めてきましたが…

ところで、今年の夏休みは長期休暇をとらなかったので、7・8月は週1回の鳥取通いで読書が進みました。有川浩さんの自衛隊シリーズ「塩の街」「空の中」、海堂尊さんの「チームバチスタの栄光」を読破。John Irbingの "The Cider House Rules" も電子辞書片手に読み始めました。その分、学会誌の方はおろそかになっていて反省_(._.)_

今年の3月頃に読んだ本で、ずっとブログに書こうと思っていたのが、特別養護老人ホーム 芦花ホーム 医師 石飛幸三さんが書かれた『「平穏死」のすすめ』です。副題に「口から食べられなくなったらどうしますか」とあります。

私は、首都圏で呼吸器内科の勤務医をしていた時にたくさんの肺癌患者さんを担当しました。残念ながら、内科で抗がん剤や放射線治療を受けられる患者さんの多くは病状が進行して2年以内に亡くなりました。教科書を読んだり先輩に教えてもらったりして、患者さんの苦痛を和らげる緩和ケアも実践していました。その中に、過剰な点滴や栄養は癌末期の患者さんの苦痛をかえって増やしたり長引かせるのでしてはいけない、との教えがありました。

大学の医局を離れ内科系の民間病院で働き始めた時、病棟でIVH(中心静脈カテーテルを利用した高カロリー輸液)や経鼻胃管からの流動食で生かされている超高齢の患者さんを拝見した時に、強い違和感を覚えてしまったのは、おそらく上記の経歴が影響していると思います。でも、肺炎や尿路感染の治療のために自宅や介護施設から病院へ連れて来られた患者さんに点滴治療をしない訳にはいきません。さらに治療が終わったら、退院していただかなければなりません。食事を「口から」食べられない患者さんは、IVHで長期療養病床へ、もしくは経鼻胃管か胃ろう(PEG)からの経管栄養で介護施設へ移っていかれます。しかし、経管栄養を始めても度々肺炎を起こされ、なかなか退院できない患者さんもおられます。でも、点滴をしていればそう簡単には亡くなりません。ご本人やご家族にとってもう少し楽な最期はないものか…と葛藤する日々でした。

そんな中で出会ったのが、全国的にも珍しい特別養護老人ホーム(特養)の常勤の配置医である、石飛医師の書かれた本書です。冒頭には、初めてホームに出勤した時に胃ろうや経鼻胃管から経管栄養を受けておられる16名の入所者に会われた時の衝撃がつづられています。「人間こうまでして生きていなければならないのか。これまで幾多の苦難に耐え、それを乗り越えてきた人生、その果てにまたこのような試練にたえなければならないとは、何とも言えない理不尽な思いを感じた」「その上この方たちは、『今日はお腹がすかないから、もう結構です』と言えないのです。」

本書の中で、特養の入所者は老衰あるいは認知症のため嚥下反射が衰え、気管に食べ物が入って肺炎をおこすが、常勤の配置医には保険診療はできず、看護師の数も十分でないため、病院へ入院させなければならない。肺炎の治療が終わっても口から食べられない患者さんは、胃ろうをつけてホームに戻ってくる。しかし、経管栄養になっても胃からの逆流や口腔の雑菌により肺炎を起こす。その結果、ホーム入所者の60%がホームで死にたいと希望しているのに、実際にホームで亡くなるのはは7%で、80%が病院で亡くなっている現状が紹介されています。また、その要因として家族やホームの職員の「最後まで手を尽くそう」という延命主義と、何もしないで患者さんが死んだ場合に刑法の保護責任者遺棄致死罪に当たる恐れがある点を挙げています。さらに、今の医学教育では病気を治すことばかり教わり、多くの医師は自然死の姿を知る機会がないと指摘しています。

石飛医師が芦花ホームの常勤配置医となってから、介護士や看護師と議論しながら、入所者が経口摂取が困難になった場合には食べさせる量を制限し、むせるようだったら中止する。経管栄養になった場合でも量を控えることを実践した結果、肺炎で入院する方が減ったとのことです。また、職員の意識改革を行い、ご家族ともよく相談して、入所者の具合が悪くなっても、あえて病院には送らずにホームで看取ることを目指し、4年間で47名の方がホームで亡くなられたそうです。本文には、ホームで穏やかな最期を迎えられた方々の様子が綴られています。

厚労省は介護施設での看取りを増やすために、平成18年から看取り加算を設けましたが、特別養護老人ホームの配置医は別の医療機関の医師でないと保険診療が行えず、診療所や病院の診療の合間に往診しても、初再診料や往診料は請求できない仕組みになってるそうです。それでは、職員やご家族と十分に話し合う時間は持てないのではないでしょうか。保険診療が行えない常勤の配置医である石飛医師のお給料は、世田谷区から出ているそうでしす、その余裕がある施設は限られます。介護施設での医療費を抑えようとして、病院での医療費を増やしているのではないか?そのような、制度の矛盾もあぶり出されています。

ちなみに、最近とある教科書で「呼吸困難の小児では、胎内にいる同じ屈曲した姿勢をとらせると楽になる」というような記述をみかけました。意識がほとんどない、寝たきりの高齢の患者さんも徐々に手足や股関節が屈曲してきます。思えば、普通の食事→とろみをつけた食事(=離乳食)→非経口栄養(胎内)と赤ちゃんが育つのと逆の過程を通っていくのだなぁと思うと、愛おしくなり、初めに感じたような理不尽な思いは消えてきました。でも、「口から食べられなくなったら自然な死を迎えたい(迎えさせたい)」という思いは受け止められる医師になりたいとは思い続けています。その話題は、また別の機会に…

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